2014年11月25日火曜日

”ココロをデザインする!”サービスデザイナー奮闘記/地方旅館をサービスデザインで変革せよ!(1)

サービスデザインの概念も手法もまだ手探りだった頃、きっかけがあって、ある地方旅館のオーナーから再生支援という仕事をいただいた。従来は、コンサルタントとして業績状況や管理指標、CSアンケート結果などの数字分析と、インタビューや施設の視察等から問題点を浮き彫りにし、解決案を提示し、それにそって前向きに実行してもらうというプロセスを踏んでいた。しかし、“独自のサービスデザインスキルで、顧客価値を共創する”を事業ミッションに掲げた以上、従来の取り組みだけでなく、私達自身で考え抜いた方法で、【確かに新しい価値を共に創造できた!】という実感を関係者と共有して、プロジェクトを終了したいという思いがあった。そこで、3名のコンサルタントで試行錯誤しながら取り組んだことをシリーズで紹介し、最後に何が重要だったかを整理していきたい。




(1) 顧客体験から洞察を得る!

私達が最初に行なったのは、その旅館の中心顧客を想定し、その顧客の心理になりきって「チラシやHPを見て比較検討の上、プランを選択し、電話で予約をして現地に行く」ということだった。通常であれば、事前に打合せのアポを取り、ミーティングの日程を決め、「よろしくお願いします。」で訪問するのだが、あえて覆面調査から始めた。

顧客心理からすると、『どういうコンタクトポイントで、何をどう考え、どういう行動を選択するのか?』を、一連の体験の中でメモしながら明確化していく。すると、実際の旅館サービスを受ける前/中/後において、いくつかの、特に”重要な選択”にかかわる分岐点があることが見えてきた。
例えば、
  • 「ウェブサイトで他の旅館・ホテル等を比較する際、確認する旅館・ホテルの売り(●●)は何か?」を、見る人の立場でしっかり訴求できているのか?
  • 予約や道案内の電話応対では、かけている側の心理をふまえ、安心感や期待感を与える対応になっているか?
  • 到着した際の第一印象は、期待感を高める”見た目”(演出)になっているか?
そういったコンタクトポイントを積み重ねながら、顧客のココロは常に動き続けている。単純に言えば、数ある選択肢の中から選んだ旅館に対して、顧客のココロには「~というココロの満足が欲しい。そのために~だったらいいな…」という、未来の体験に対する期待値がある。その期待値に対して、あらゆるコンタクトポイントにおいてココロがプラスに働くのか?マイナスの働くのか?をつぶさに見ていくのである。
ココロのアップダウンでオモシロいのは、一瞬「嫌だな」「面倒だな」と思っても、それを即座にリカバリーする何かがあると、すぐにその否定的な感覚は消滅する。また、前向きな心理が継続すると、比較的ダウンする確率が低くなる。そして、特に【決定的なココロのアップ】につながる山場体験があると、相当プラスの波及効果がある。
その旅館では、全てが”そこそこ”で、いわゆる”中途半端”。悪くはないが、良くもない。しかし、これこそが価値創造を阻んでいる大きな要因の一つだった。実際に旅館の支配人と話をしてみると、「私達も、それなりに研究してお客様を呼ぶようにやっています。」という、従来の固定観念が強かった。確かに努力はしているものの、どちらかといえば、それぞれを”点”として捉えており、CSアンケートで出された項目を一つずつ潰していくという取り組みだった。ゆえに、玄関が暗いと言われれば花を飾ろう、温泉の温度がぬるいと言われれば温度を高めに設定しよう、というまさに裏返しの対症療法にまじめに取り組んでいたため、逆にちぐはぐ感が出てしまっていた。
私達は”サービスデザイン=モノとココロの調和”と考えているが、まさにこの発想が”調和”を崩してしまう原因だった。この乖離・対立を、どう新たな価値創造につなげていくか?私達はまだ材料不足だと感じた。ゆえに、もう一歩入り込んで、よりきめ細かくお客様のココロを左右している実態をつかむための取り組みを始めた。



(2) とにかく現場密着!

次のステップでは、3名のコンサルタントが「調理部門」と「接客部門」に分かれて、徹底的にスタッフに密着することとした。目的は以下の2つである。
  1. 現状のやり方・考え方をつぶさにつかむと共に、それぞれのお客様との接点で、お客様がどう感じているかを具体的に知る。
  2. 物理的・金銭的・時間的な制約がある中でも、お客様のココロが上向くポイント(山場)を創造できないかを探る。

アドバイス等は一際せず、ひたすら目の前に起こっている事実を知り、メモする。時にストップウォッチを持って時間を測定したり、必要な質問は行うが、お客様と担当者間でサービスが創られていくプロセスをつかみ、お客様側の視点からどう見えているかを考えるという時間だった。
例えば、調理部門を担当したコンサルタントは、朝市の食材の買い出しから同行し、夜の後片付けや翌日のメニュープラン作りまで観察し続ける。接客分野では、どのタイミングで誰が何をどのように準備し、対応しているかをつぶさにつかむ。それをメモしておく。彼ら、彼女らから見れば、それは業務オペレーションであり、時間内にしっかりこなさなければいけない作業という認識があるため、逆に“新たな価値の創造”と言われても、発想が広がりにくいという側面があった。ゆえに、第三者が入ることで、客観的な視点で物事を捉え直すことができた。




(3) サービスコンセプトの明確化

現状を洗い出すことと並行して、「強みを活かして、新たにどのような顧客にどのような価値を提供できる旅館にしたいのか・すべきなのか」を、支配人はじめ、スタッフと議論しながら明確化するミーティングを持った。いわゆるサービスコンセプトづくりである。
こちらから提言するというよりも、まずは当事者が意志を持って作成しないと、お仕着せになってしまう。そこで、様々なツールを活用しながら、”どんなふうに喜んでもらえる状態を作れれば、関係者が皆ハッピーになるか”をイメージしてもらいながら、形作っていった。当初、支配人は固定観念が強く、「でも~はできない」というボールばかり投げてきて、発想が広がらない。ワクワク感も生まれない状態だった。しかし、諦めたらおしまい。なぜサービス業を始めたのか?スタートした時はどういうビジョンを持っていたのか?など、現在~過去を振り返りつつ、未来を描くようリードした。しかし、実際のひらめきはパート従業員から生まれた。彼女は、「自分はパートでしかないし、責任を持っているわけでもない。でしゃばって口を出すと人間関係に波風が立つ。」とミーティングの間も遠慮していたらしい。ただ、最後に我慢しきれず、自分の思いを全員の前で発表し始めた。

本来この旅館は、リーズナブルな割に、地域のおいしい魚が充分楽しめ、出張客にも家族客にも安心してリラックスし、英気を養ってもらいたい。決してゴージャスさはないが、「あたかも親戚の家に遊びに来ている」ように、常連になってくつろいで欲しい。新しいお客様にも、そういう家族的な雰囲気で、且つ驚きの豪快な料理を味わって欲しい…そういう想いを訴えた。私達は貴重なターニングポイントと判断し、それらのキーワードを書き出し、ホワイトボードに貼り出していった。
  • リーズナブルな価格
  • その割に驚くような豪快な地元の魚料理
  • 決してゴージャスではないが、すみずみまで行き届いた清掃による快適さ
  • 親戚のような距離感と親しみやすさ
  • まるで常連さんのように個別対応してくれる
  • 家族連れでも遠慮なく迎え入れてくれる
徐々にイメージが現状を超え、ワクワク感のある方向に導かれていった。あとは、それを自分達で納得いく言葉で表すこととし、合意がとれたところで、【そのために何が必要か】を徹底的に洗い出すという取り組みに入った。(続く)

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サービスデザイン研究所
Service Design Institute
代表取締役/サービスデザイナー 袋井 泰江(Fukuroi Yasuko)













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