2014年12月15日月曜日

”ココロをデザインする!”サービスデザイナー奮闘記/地方旅館をサービスデザインで変革せよ!(3)

(1) 感動の山場づくり

「私たち、旅館〇は、△△地域の季節の食を満喫できるお得感NO.1のくつろぎの宿です。」
と宣言することで、お客様の事前期待は高まる。

おそらく中心顧客となるのは、
  • 東京・関西・中部からの時間があるシニア層の旅行客(夫婦、家族、友達連れ)
  • ツアー等ではなく、自分たちのペースで気楽に旅行を楽しみたい
  • 贅沢というより、リーズナブルに価値を置く
  • 「自然を親しみたい、散歩・ハイキングや自然観光を楽しみたい」という旅行客。
そういう人達のココロは、旅館が打ち出すサービスコンセプトに対して以下のように動くと想定された。
「ほお、△△地域の季節(旬)って、今の時期ならなんだろう?ここではなかなか食べられない新鮮なおいしいものだろうな。」
「”満喫”ってことは、豪快にふんだんに食べられるってコトかな。」
「きっと見た目もすごいのかな。」
「他の旅館やホテル、飲食店に入るよりもお得って、どのレベルだろう?NO.1と謳う以上は、ちまちましていないはず。」
「くつろぎの宿となると、お風呂とか部屋もゆったりしているんだろうな。」
「ごてごて飾ってなくて、自然体で過ごせそうかな…」

fireworks 03私達が目指すのは、この期待を超えて、
「うわ~、思った以上に珍しい食材がいろいろあるんだな!」
「思った以上に豪快だな。見た目でまずびっくりした!」
「え~、そんな値段でいいの?」
「全然かしこまらずに、気さくに話ができて、リラックスできる!」
「シンプルだけど無駄がなくて、この価格なら十分だ!」
「お風呂はそんなに大きくはないけれど、ゆっくり入れて、ゆっくり寝れる!」
⇒なんだか、ほんとにリラックスできて、楽しめて、土産話もいっぱいできて、これならまた違う季節に来てみたいね。他で泊まるより、絶対お得だもん。


最初から諦めたら何も始まらない。このココロの動きを実現するには、今ある資源+αで何が必要か?皆で仕事の合間の時間を全て投入して、ディスカッションし合った。特に重要になるのは、「うわ~!」という山場の場面づくりである。それをテコにプロセスを創っていく。
す ると、重要な主役の一人はやはり料理長。オモシロいことに、従来は《せっかくわざわざお客さんがお金を払って来ているのに、こんなしょうもないものを出す のは申し訳ない》と考えて、あえて地元の人が慣れ親しんでいるような食材を避け、築地経由のような高級なモノを背伸びして仕入れて、「これでどうだ!」と 腕を見せびらかす、というパターンだった。実はそれでは感動は創れない。コンサルタントが他のエリアから来るお客様の視点に立って、あえて地元スーパーや 市場に行って一緒に食材選びをし、調理法を考えた。そして、見た目に驚きを持たせるための”豪快な”盛りつけ法や出し方を、あれこれ食器を変えながら一緒 にトライする。しかし、ただ出しただけでは”わからない食材”で終わってしまう。そこで、接客係の出番となる。地元ではいつから、どのように食べられてい るのか、どういう料理法が多いのか、今日はそれをどのような料理法で試したか等を方言を入れながら、しつこくならないように補足説明する。ついでに、一緒 に飲むと料理がぐっと楽しめる珍しい地酒や焼酎も、さりげなくお薦めする。それと同時に、「どこから、何のために来られたのか」を会話の中からさりげなく お聞きする。相づちをうちながら会話をすることで、場も賑やかになる。それだけでなく、しっかり聞き出せた情報はカルテにメモし、その後のサービスにつな げていく。



(2) サービスを試す!(プロトタイプ:仮説-検証、そして改善)
02traetarttae 
それを下準備し、練習して、試してみる。特に、目玉となる料理を出した瞬間のお客様の表情の細かな動きを観察する。感動とはアンケート結果だけでなく、その瞬間の顔の動きににじみ出る。そこにスタッフの関心を注目させることで、しっかり反応を見ていこうとしたのである。
最 初は恥ずかしがってお客様の前に出ることを拒んだ料理長にも、主旨をしっかり伝えて、「お客様のこの表情を創り出すのがわたしたちのミッションです。」と 強調した。どの従業員も真剣である。そして、小さなガッツポーズがあちこちで生まれるようになった。これが軌道に乗ると、徐々に自発的に「もっと感動を創 ることはできないか」を一人一人が考え始めるようになる。それが最大の狙いだった。
もちろん、料理だけが良くてもサービスデザインにはなら ない。その他の領域においても、《どんなココロの動きを創り出すのが仕事か?》を明確化し、その領域の核メンバーを決め、できるだけ固定観念を取り除くよ うリードをしながら、一歩ずつ取り組みを進めて行った。留意したのは、「ふんだんにお金をかけて立派な設備を作れば満足度は上がるのに・・」という発想に 流れないことだった。だから、あえてコストにも関心を持ってもらった。なぜなら、それだけに頼ってしまうと、一過性で終わる上、知恵も出ないからである。 むしろ、足元にあるものでまだ眠っている資源を、発想の転換によってどう生まれ変わらせるかに注力した。実際、最も満足度が上がった《料理》は仕入れコス トが抑えられたのである。利益が出れば、それをまた感動づくりに回すことができる。そして何より、働いている従業員が達成感・やりがい、誇り、喜び、チー ムへの愛着を持って生き生きと働くことができる。サービスデザインは、お客様にとってだけでなく関係者全てをハッピーにするための取り組みでもある。それ を実感してもらいたかった。



以下は、しばらくしてスタッフもらった手紙の一部である。
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先日はありがとうございました。

その後3日間アンケートの評価がパーフェクトだったんです。すごく嬉しかったです。
私 も今日つくづく感じました、接客って本当に楽しい。すごく忙しくて走り回っていても、お客様の前だけは時間もゆっくり流れたり、いま何を望まれているか探 るのも、目と目で気持ちのいい会話ができたり。多分、私が一日で一番輝ける時間なんだろうと感じています。知り合いが来てくれたとき「仕事してる姿美しい」って…?では普段は?(笑)です。

名前を覚えるのも慣れってあるんですんね。最近は自分が接客したお客様の名前は朝も自然とでてきたり。少しずつ成長できてるんですね。もっともっと楽しくなるように自分を磨きます。
今回の改革は、私にとって とても楽しく やりがいもあって、正直望んでいた事でもあります。だから、改革は責任を持ってやって行く決意です。自分も磨けるいい機会を与えてくださった、と感謝しています。

でも毎日半端ではなく忙しい日々、皆よく働きます。順番に休みも取らなくてはいけないので、そんな日は残った者は大変さもマックスですが、頑張っています。 ここにたどり着くまでに、皆や自分自身との対立・葛藤・反発など壁もいろいろあり、悔しいやらなんやらで 一晩泣いたりもしました。辞めてやる!とも思っ たけど、終業後のビアガーデンで話したらみんなすっかりそんなことも忘れているようで、ひたすら私は自分を信じて行動しようと思います。

支配人にはもっとこうしてほしい、と心の中で求める事が多く…BUT、素晴らしいとこも、たくさんあるんですけどね。支配人から見たら私も同じように見えるんだだと思います。
アンケートでのエピソードなど お伝えしたい事は山積みですが もう、ねま~す。ともかく、皆で頑張っています。安心してください。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

サービスデザイナーとしてまだ形も手法も定まらない中、”ココロの動き”にフォーカスしてトライした数ヶ月間。時には私達自身、本当に改革はうまくいくのだろうか、というプレッシャーを感じることもあったが、”信じる”ことにした。

次回はこの取り組みを通じて、サービスデザインでサービス革新を現実化させるにあたり、私達が留意したことを整理したいと考えている。(続く)


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サービスデザイン研究所
Service Design Institute
代表取締役/サービスデザイナー 袋井 泰江(Fukuroi Yasuko)













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【人が育つコールセンターづくりへの挑戦~コールセンターブログ~】:http://sdi.ecnet.jp/topics/blog_term/call_center
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【グローバルサービスデザインで新たな時代を切り拓く!】
独自のサービスデザインスキルにより、サービス革新に挑戦する組織の顧客価値創造支援を行います。

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2014年12月1日月曜日

”ココロをデザインする!”サービスデザイナー奮闘記/地方旅館をサービスデザインで変革せよ!(2)



(1) 異質の意見を出し合う意義

皆で意見を出し合う中で留意したことがある。意外に難しいのは、「異なる視点でモノを見つめ直す」ことである。ベテランスタッフが多いだけに、「今までそれなりに『ありがとう』と言ってもらってきた」「特にクレームも言われていない」ということで良しとしてきた長い歴史がある。それが革新を阻む一番の敵である。

その時、私達にとって救世主となったのは、小中学生の子供の子育てに追われつつも、忙しい時間帯にパートとして接客等を手伝っていた支配人の奥さんだった。あまり出しゃばってもいけないと、遠慮してきた彼女だったが、元々ホテルでの接客経験もあり、常に冷静で客観的な視点を持って旅館の運営を見てきていた。ある意味、スタッフからすれば異質な立場であるが、新鮮な発想でサービスをデザインするには、こういう異質の視点や専門知識等が必須となる。

私達は、奥さんの意見を尊重する方針を決め、積極的に「この旅館はどうありたいか」「どうあるべきか」を出してもらった。すると、数十分の間に50以上の具体的な改善点のメモが出てきた。旅館内のポスター、テーブルの上の案内状のレベルから、食事の見た目、おもてなしの仕方に至るまで「もっとこんな旅館にしたい!」という強い思いが感じられるメモだった。彼女にはある意味、「旅館経営=将来の生活」もかかっている。その真剣さがプラスに働いた。

また、従来のCSアンケートのフィードバックだけでなく、事前の私たちのリサーチ内で、覆面客として他のお客様と積極的に世間話をした中から得られた情報もある。常連さんからは、日頃から「もっとこうだったらいいのに」とか、「ここが気に入っている」という点をいろいろ洗い出してもらった。また、奥さんの友達・子供の友達家族も食事などで旅館を利用する機会があり、率直に意見を出してもらった。それらを突き合わせつつ、予算等の制約がある中で、お客様に「生まれ変わった新しいサービス」を実感していただくためにどのようなサービスを提供できる旅館にしていくか、そのサービスコンセプトを決定した。




(2) サービスコンセプトの表明と課題の洗い出し

色々議論した末、最終的に、旅館の新しいサービスコンセプトは
「私たち、旅館〇○は、△△地域の季節の食を満喫できるお得感NO.1のくつろぎの宿です。」
に決まった。
サービスコンセプトは単なるスローガンではない。全ての判断はサービスコンセプト実現に沿うか否かで決定される。それだけ重要な意味を持つ。そこで、今後、あらゆる顧客接点において、お客様にサービスコンセプトを実感していただけるようなココロの動きをデザインしなければならない。すなわち、チラシやHPから始まり、電話応対、接客、部屋、入浴、食事、散歩等々においても、地域らしさ、くつろぎ、季節の食、お得感を感じていただけるような、ココロの動きをデザインする。そのために、従来の全ての顧客接点を見直し、”点”ではなく、顧客視点に立った一連の体験におけるわくわく感を継続させるようにデザインし直すのである。


そこで、まずは支配人をはじめ、全てのスタッフに「何をどう変える必要があるか?」を書き出してもらった。以下はその時に洗い出した手作り感満載の項目(一部)である。



(画像をクリックすると拡大されます。)


これらを点ではなく「線」として、あるいは「面」としてつないでいく。あとは、【プロトタイプ】といわれるように、”やってみて、反応を見て、改善を加える”必要がある。

しかし、取り組む主体は支配人、ベテラン従業員、パートスタッフである。こまやかな工夫・改善は、当人達が心から「お客様にこういう実感を持っていただきたい!」というパッションを持っていなければ生まれない。”サービスは勝手に生み出されるものではなく、アートのようにお客様と一緒に創り出していくもの”である以上、いかに新たなサービス革新に挑戦してもらう環境を創るかが、次の重要課題である。(続く)



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2014年11月25日火曜日

”ココロをデザインする!”サービスデザイナー奮闘記/地方旅館をサービスデザインで変革せよ!(1)

サービスデザインの概念も手法もまだ手探りだった頃、きっかけがあって、ある地方旅館のオーナーから再生支援という仕事をいただいた。従来は、コンサルタントとして業績状況や管理指標、CSアンケート結果などの数字分析と、インタビューや施設の視察等から問題点を浮き彫りにし、解決案を提示し、それにそって前向きに実行してもらうというプロセスを踏んでいた。しかし、“独自のサービスデザインスキルで、顧客価値を共創する”を事業ミッションに掲げた以上、従来の取り組みだけでなく、私達自身で考え抜いた方法で、【確かに新しい価値を共に創造できた!】という実感を関係者と共有して、プロジェクトを終了したいという思いがあった。そこで、3名のコンサルタントで試行錯誤しながら取り組んだことをシリーズで紹介し、最後に何が重要だったかを整理していきたい。




(1) 顧客体験から洞察を得る!

私達が最初に行なったのは、その旅館の中心顧客を想定し、その顧客の心理になりきって「チラシやHPを見て比較検討の上、プランを選択し、電話で予約をして現地に行く」ということだった。通常であれば、事前に打合せのアポを取り、ミーティングの日程を決め、「よろしくお願いします。」で訪問するのだが、あえて覆面調査から始めた。

顧客心理からすると、『どういうコンタクトポイントで、何をどう考え、どういう行動を選択するのか?』を、一連の体験の中でメモしながら明確化していく。すると、実際の旅館サービスを受ける前/中/後において、いくつかの、特に”重要な選択”にかかわる分岐点があることが見えてきた。
例えば、
  • 「ウェブサイトで他の旅館・ホテル等を比較する際、確認する旅館・ホテルの売り(●●)は何か?」を、見る人の立場でしっかり訴求できているのか?
  • 予約や道案内の電話応対では、かけている側の心理をふまえ、安心感や期待感を与える対応になっているか?
  • 到着した際の第一印象は、期待感を高める”見た目”(演出)になっているか?
そういったコンタクトポイントを積み重ねながら、顧客のココロは常に動き続けている。単純に言えば、数ある選択肢の中から選んだ旅館に対して、顧客のココロには「~というココロの満足が欲しい。そのために~だったらいいな…」という、未来の体験に対する期待値がある。その期待値に対して、あらゆるコンタクトポイントにおいてココロがプラスに働くのか?マイナスの働くのか?をつぶさに見ていくのである。
ココロのアップダウンでオモシロいのは、一瞬「嫌だな」「面倒だな」と思っても、それを即座にリカバリーする何かがあると、すぐにその否定的な感覚は消滅する。また、前向きな心理が継続すると、比較的ダウンする確率が低くなる。そして、特に【決定的なココロのアップ】につながる山場体験があると、相当プラスの波及効果がある。
その旅館では、全てが”そこそこ”で、いわゆる”中途半端”。悪くはないが、良くもない。しかし、これこそが価値創造を阻んでいる大きな要因の一つだった。実際に旅館の支配人と話をしてみると、「私達も、それなりに研究してお客様を呼ぶようにやっています。」という、従来の固定観念が強かった。確かに努力はしているものの、どちらかといえば、それぞれを”点”として捉えており、CSアンケートで出された項目を一つずつ潰していくという取り組みだった。ゆえに、玄関が暗いと言われれば花を飾ろう、温泉の温度がぬるいと言われれば温度を高めに設定しよう、というまさに裏返しの対症療法にまじめに取り組んでいたため、逆にちぐはぐ感が出てしまっていた。
私達は”サービスデザイン=モノとココロの調和”と考えているが、まさにこの発想が”調和”を崩してしまう原因だった。この乖離・対立を、どう新たな価値創造につなげていくか?私達はまだ材料不足だと感じた。ゆえに、もう一歩入り込んで、よりきめ細かくお客様のココロを左右している実態をつかむための取り組みを始めた。



(2) とにかく現場密着!

次のステップでは、3名のコンサルタントが「調理部門」と「接客部門」に分かれて、徹底的にスタッフに密着することとした。目的は以下の2つである。
  1. 現状のやり方・考え方をつぶさにつかむと共に、それぞれのお客様との接点で、お客様がどう感じているかを具体的に知る。
  2. 物理的・金銭的・時間的な制約がある中でも、お客様のココロが上向くポイント(山場)を創造できないかを探る。

アドバイス等は一際せず、ひたすら目の前に起こっている事実を知り、メモする。時にストップウォッチを持って時間を測定したり、必要な質問は行うが、お客様と担当者間でサービスが創られていくプロセスをつかみ、お客様側の視点からどう見えているかを考えるという時間だった。
例えば、調理部門を担当したコンサルタントは、朝市の食材の買い出しから同行し、夜の後片付けや翌日のメニュープラン作りまで観察し続ける。接客分野では、どのタイミングで誰が何をどのように準備し、対応しているかをつぶさにつかむ。それをメモしておく。彼ら、彼女らから見れば、それは業務オペレーションであり、時間内にしっかりこなさなければいけない作業という認識があるため、逆に“新たな価値の創造”と言われても、発想が広がりにくいという側面があった。ゆえに、第三者が入ることで、客観的な視点で物事を捉え直すことができた。




(3) サービスコンセプトの明確化

現状を洗い出すことと並行して、「強みを活かして、新たにどのような顧客にどのような価値を提供できる旅館にしたいのか・すべきなのか」を、支配人はじめ、スタッフと議論しながら明確化するミーティングを持った。いわゆるサービスコンセプトづくりである。
こちらから提言するというよりも、まずは当事者が意志を持って作成しないと、お仕着せになってしまう。そこで、様々なツールを活用しながら、”どんなふうに喜んでもらえる状態を作れれば、関係者が皆ハッピーになるか”をイメージしてもらいながら、形作っていった。当初、支配人は固定観念が強く、「でも~はできない」というボールばかり投げてきて、発想が広がらない。ワクワク感も生まれない状態だった。しかし、諦めたらおしまい。なぜサービス業を始めたのか?スタートした時はどういうビジョンを持っていたのか?など、現在~過去を振り返りつつ、未来を描くようリードした。しかし、実際のひらめきはパート従業員から生まれた。彼女は、「自分はパートでしかないし、責任を持っているわけでもない。でしゃばって口を出すと人間関係に波風が立つ。」とミーティングの間も遠慮していたらしい。ただ、最後に我慢しきれず、自分の思いを全員の前で発表し始めた。

本来この旅館は、リーズナブルな割に、地域のおいしい魚が充分楽しめ、出張客にも家族客にも安心してリラックスし、英気を養ってもらいたい。決してゴージャスさはないが、「あたかも親戚の家に遊びに来ている」ように、常連になってくつろいで欲しい。新しいお客様にも、そういう家族的な雰囲気で、且つ驚きの豪快な料理を味わって欲しい…そういう想いを訴えた。私達は貴重なターニングポイントと判断し、それらのキーワードを書き出し、ホワイトボードに貼り出していった。
  • リーズナブルな価格
  • その割に驚くような豪快な地元の魚料理
  • 決してゴージャスではないが、すみずみまで行き届いた清掃による快適さ
  • 親戚のような距離感と親しみやすさ
  • まるで常連さんのように個別対応してくれる
  • 家族連れでも遠慮なく迎え入れてくれる
徐々にイメージが現状を超え、ワクワク感のある方向に導かれていった。あとは、それを自分達で納得いく言葉で表すこととし、合意がとれたところで、【そのために何が必要か】を徹底的に洗い出すという取り組みに入った。(続く)

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2014年10月16日木曜日

サービスデザインとは?vol.7 ~サービスデザインに必要不可欠な「両立」の発想~


繰り返しになるが、2004年に株式会社サービスデザイン研究所を設立した際のサービスデザインの定義は、
「サービスデザインとは、お客さまの喜びや感動を創造する、ココロとモノの調和のとれた“かたち”を構築すること」
であった。そしてこれまで、この定義に込めた考え方を整理してきた。
しかし、実際にココロとモノの調和のとれた”かたち”を構築するには、様々な”対立”が生まれる。
実はこの”対立を両立に変えていく”中に、サービスデザインの本質がある。
お客様にとって本当に価値が実感できる体験を提供しようと、”サービスコンセプト”にのっとって全てのタッチポイントにおける理想を描いても、通常様々な困難が発生する。





例えば、フロントステージでは「迅速に、スムーズに〇○を行えるようにする」のがベストであるとしても、バックステージでは、それを実現しようとすると人・モノ・時間等の面で相当な負荷がかかる。それをどう乗り越えるべきか?の答えが必要になる。従来はそれが解決できず、「~がないから~できない」という発想に陥ってあきらめる、妥協するというケースも多かった。
しかし、中には「こうすれば新しいカタチができる!」という強い信念を持って調和を実現したことで、大きく発展した会社もある。

例えばJR東日本。鉄道事業・Suica事業、生活サービス事業が経営の柱になっているが、それを統合するサービスコンセプトは「安全・快適な移動のサポート」である。その実現のために、例えばダイヤや車輌の改善、ユニバーサルデザインはもちろんだが、駅ナカで過ごす時間の快適性、利便性の実現に向けてSuicaをはじめ、最先端技術の開発により、あらゆるタッチポイントの品質向上に努めている。その地道な取り組みは、ある意味「生活革命」をもたらしている。昔見慣れた”殺風景な駅で毎回並んで切符を買い、無愛想な駅員を横目で見ながら改札を通り、キオスクで焦りながら小銭を探し、振動や音がうるさい電車に乗り…”という光景は今や一変した。明るく華やかなショップが建ち並ぶ主要駅。楽しそうに買い物をする光景。負荷を感じることなくカード一枚で決済できる状況。まさに、”サービスデザインが世界を変えた”という一例といえる。



ただし、その実現のためには、社内外を問わず、大小様々な対立を一つ一つ乗り越える地道な取り組みが必要だった。詳しくは『Suicaが世界を変える(椎橋章夫著:東京新聞出版局)』に書かれているが、何度も頓挫しかけながら”利用者を含めた社会的価値”、”JR東日本にとっての価値”、”関係会社の将来にとっての価値”、”技術者としての誇り”などをテコにして関係者の協力を取り付けていった。エピソードとして、関係会社に対し「JR東日本も本気になってやることなので、協力してくれるならそちらも社運を賭けて欲しい。上から下まで会社のトップが関われるような体制にして欲しい。」とひたすらお願いして回った経緯が書かれている。

このようにサービスデザインは、一部門・一企業単独ではなく、多くの専門的な領域の関係者とのコラボレーションによる”価値共創”が重要なだけに、いかにこの対立を両立に変えていけるかがカギとなる。そういう様々なレベルでの調和を実現していくことこそ、サービスデザインである。
そのためには、もちろん全体の調和に責任を持つサービスデザイナーの力量が重要となるが、特定の人間の知恵やセンスだけで全ての対立を乗り越えられるものではない。関係者が共通の目的に向かって主体的に知恵を出し合い、試行錯誤しながら創り上げていく必要がある。

サービスデザインは、サービスコンセプトを中心に置きながらも、「理想と現実」「全体と個別」…「フロントステージの視点とバックステージの視点」等々に関して、行きつ戻りつしつつ、試行錯誤しながら調和を追求する。それゆえに、一気呵成に出来上がるものではない。そのように考え始めると、大きすぎてどこから手をつけていいのか…と暗闇に入ってしまうこともあるが、この難題に挑戦するからこそ、サービスデザインはこれからの世界の革新(イノベーション)にとって大きな意義を持つと考えるのである。



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店長カレッジのご案内(PDFファイル) 

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