2014年9月26日金曜日

サービスデザインとは?vol.6 ~モノの動きではなく、心の動きを描くこと~



従来、製品等のデザイン分野は、デザインの専門家の領域であった。経営者をはじめ他部門はデザインされたモノを見て批評はしても、作り上げるプロセスはプロに任せるいうスタンスが一般的であった。その背景には、「デザインの専門的なことはわからない」「そもそもデザインセンスもない素人だから」という考えや、「自分たちはできあがったモノを売るのが仕事であり、口を挟む立場ではない」という考えがある。すなわち、従来の組織では、顧客を創造するために、トータルサービスという観点よりも、各部門が「つくったモノをどうアピールするか」「いかにスムーズにできあがったモノを目的地に移動させるか」「いかに販売したモノの代金回収をしっかり行うか」など、モノの動きを中心として、担当分野における効果・効率アップに力を入れてきた。それは製造業に限らず、小売りサービス等においても同じである。遊園地などでも、顧客対応スタッフは「アトラクションを考えて導入するのは●●の担当。自分たちは安全にスムーズにお客さんを誘導するのが仕事」と考えて取り組んできた経緯がある。 

しかし、サービスデザインのプロセスは、それとは異なる。早い段階で関係者(部署)がサービスコンセプトを共有した上で、顧客がどのような体験を通してどのような心のカタチになっていくか、それぞれ知恵を出し合って、トータルの一つのデザインを作り上げる。そこでは、デザインの専門の勉強をしてきたプロのデザイナーであることやデザインセンスに優れていることが強く求められるわけではない。むしろ、顧客視点を失わずに、どれだけコンセプト実現に対して自部門の立場や現実の制約にとらわれすぎず、何ができるかを必死に考え抜く力である。逆にそういった議論や体験の中で、サービスデザインへの関心が高まり、皆の参画度が増してくる。 

その際、サービスはその場で消費され目に見えにくいだけに、ツールなしで議論すると立場の違いから収拾がつかなくなったり、顧客視点が抜けがちになったりする。そういう落とし穴にはまらないために、昨今ではサービスデザインのためのツール開発も進んできた。例えば、サービスデザインで使われるブループリントとは「サービスを検証、実装、メンテナンスするのに十分なほど詳細にサービスそのものとサービスの相互作用に関わる特徴を記述したオペレーションツール」 であり、具体的にはすべてのタッチポイントとバックステージのプロセスを文書 化し、ユーザーエクスペリエンスごとに整列させ、わかりやすく見える形にしたモノである。(参考:http://www.servicedesigntools.org/ja/tools/161


「新たな心のカタチを創造する」というサービスデザインの趣旨から言えば、それを通して顧客の心がどういう状態(カタチ)に進化していくかに注目することが最も重要なポイントとなる。つまり、どうすれば顧客の心がインタラクティブな体験を通じて理想とするカタチに動いていくのか?阻害するモノは何かどう乗り越えることが大切かそれを考える中で、サービスデザインは進化していく。ブループリントが効果的なのは、顧客と直接接する表舞台だけでなく、バックヤードも含めた流れを描くことで、組織全体としてどうあるべきかを共有しやすいことである。例えば、「待ち時間が長い」という問題に関しては、従来は部署間で責任をなすりつけ合う、あるいは自分でできる最低限のことだけやって片付けようとするという実例も多々あった。しかし、サービスデザインという視点では、サービスプロセスに隙をつくらないようにするために、部門を超えて価値を共創し合うという連携は欠かせない。

「見えないモノは管理できない」と言われるが、人の心の動きも見えないだけに管理が難しく、抽象論で終わってきたきらいがある。これからの時代は、【見えないモノを見えるようにする】ことで、良い意味で目的と取り組み(プロセス)が合致しているのかを検証する時代であり、そのための研究はこれからもっと必要になる。だからこそ、一人でも多くの人にサービスデザインに興味を持ってもらい、ひとつでも多くの知恵を取り込んでいく、それが新しいサービスの進化を生み出していくという、今は貴重なタイミングであると私たちは考えている。


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サービスデザイン研究所
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2014年9月16日火曜日

サービスデザインとは?vol.5 ~サービスデザインは一つの意味を持った「世界」を創り出す~



先日読んでいた本〈紺野登:「知識デザイン企業」(日本経済新聞出版社)〉の中に、次のような言葉があった。

「われわれのプロダクト、サービス、ビジネスもひとつの意味を持った「世界」あるいは「場」である。」

「そこには当然、求められる無名の質がある。デザインというと最近はとかく差別化や目立つことが重要視される風潮があるが、本来のデザインは目立たなくてもそこに無名の質が込められていることが重要なのだ。」

そして無名の7つの質の特性として、

  1. 「生き生きしていること」 alive 
  2. 「全一的なこと」 whole
  3. 「居心地の良いこと」 confortable
  4. 「とらわれのないこと」 free
  5. 「(知識の)正確なこと」 exact
  6. 「無我であること」 egoless
  7. 「永遠であること」 eternal
を紹介している。



サービスデザインは、顧客視点に立って「心の新たなカタチを創造すること」と前回書いたが、心のカタチは意外に目に見えない、目立たないさりげない接点やインタラクティブな体験プロセスを経て創られていく。そして最終的に、デザインされたサービスによってお客様・サービス提供者共に前向きに心が動く(=感動)というトータルの〈世界〉〈場〉を創り出していると言える。



例えば、車の購入を考えている人にとって、他に候補がある中で、新しい機能や性能はもちろんだが、それだけでなく「レクサスに乗る自分をどうイメージするか」から始まって、実際にレクサスの販売店に行って説明を聞いたり、試乗をしたりする。そして、自分が欲していた、行き届いた設計によるとらわれのない走りや居心地の良い空間、またそこから降り立つ颯爽とした自分…等々の世界を体験する。”レクサスを選び、所有し、運転して出かける、それが自分のライフスタイルの一部になる、すると毎日の生活がいっそう心豊かに感じられる。即物的な車販売ではなく、そういう一連の世界観をレクサスは作り上げることを目指しているているように感じられる。だから、レクサスを販売する際には、広告から始まり、販売店、メンテナンスに至るまで、従来の系列のやり方とは一線を画した新しいコンセプトでスタートしたと聞いている。



ただし、すべての接点において、一方的に押しつけるのではなく、顧客との価値共創が必要になる。例えば、単に納車セレモニーを用意して、それを顧客に画一的に実施するのではなく、それぞれのお客様がどのようなライフスタイルを心の中で描いているのか、車にどのようなこだわりを持つのか、どのような目的で使用するのか…サービス提供者とのインタラクティブなやりとりを架け橋にしながら、〈最適〉を創り出していく。それでこそ満足が生まれる。また、売って終わりではなく、その後の広がりの世界をさらに追求していく。それがサービスデザインの革新性・創造性とも言えるし、お互いのハッピーを生み出し続けていく。





今あるハードとソフトを綺麗につなげることをサービスデザインと呼ぶのではなく、顧客の視点で感動を創造する世界とは?をとことん考え抜き、それを現実化するのがサービスデザインである。それは決して簡単なことではない。しかし、この理想を本気で現実化しようとする中で、これまでになかった新たなデザインが生み出されてくる。それだけに、まずは理想を明確に描くことに妥協があってはならない。

次回は、この理想の現実化について考えてみたい。

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2014年9月2日火曜日

サービスデザインとは?Vol.4~サービスデザインとは、心の新たなカタチを創造すること~



これまでデザインというと、目に見えるモノのデザインを指すことが多かった。では、あえてサービスデザインという場合、何をデザインするのだろうか?私たちは、サービスデザインとは、今までにない人の心の新たなカタチを創造することと考えている。 
“人の心の新たなカタチ”とは、「今までにない心の状態」を指す。例えば、「ディズニーランドに行くと、今までにないどういう心の状態になるか?」「リッツカールトンホテルに宿泊すると、今までにないどういう心の状態になるか」「このコンサートに行くと」「もし今日●●病院に行くと…」「この大学に進学すると」の「」をまず、心のカタチとして描き出すことを指す。例えば、「驚きと興奮でわくわくする」心の状態か、「癒やしを感じて心穏やかになる」状態か、「成長できていると実感でき自分に自信がもてる」状態かなど、それぞれの組織が実現したい、創造したいと強く願う心の状態を描くことである。


一見、それは事業を行う上で、当たり前のことのように思える。しかし、ともすると私たちは「心のデザイン」の前に、「オペレーション上、この方が無駄なくて効率的だ」「とにかく視覚的に目立つことが大切、そういう見せ方をしなければ」「製品がきれいに見えるように」など、目に見えやすいモノに引っ張られてしまう傾向がある。大切なのは見えるモノの奥にある本質的価値である。本質とは、モノ・サービス(体験)を通して、人の心がどう動いて、どういう状態になるかをしっかり直視することである。
スマートフォンの端末だけなら、機能、性能、機器のデザイン(形状)、価格、使いやすさ等が重要な選択の際の判断基準になる。日本の企業はそのために技術力を駆使し、しのぎを削って製造してきた。が、そもそもはiPhoneのように「持つ人がどういう心の状態になって、それによってどういう新しい可能性が生まれてきて、発展につながるか」を描くこと、そしてそれを実現するには単に端末の機能性・デザイン性だけでなく、その世界を楽しんでもらえるコンテンツの豊富さが必須条件となる。そこまでを含めてデザインするのがサービスデザインであると考える。実際、S・ジョブスは、デザインとは「人間の創造の根本にある魂(ソウル)であり、それが最終的には製品やサービスの表層にも立ち現れてくる」と考えていたと言う。ジョブスはiPhoneを単に携帯用PCとは考えなかった。それを皆がかっこよく使いこなし、いつでもどこでも何の負荷も感じず、パーソナルに思う存分楽しめる未来的な生活を描いた。その心のカタチを実現することに徹底的にエネルギーを注いだ。


もちろん、新しい心のカタチを実現するには、従来の固定観念(ハードだ、ソフトだというレベル)や狭い発想では限界がある。これまでの常識を越えた新しい発想・つながりで、領域を超えた協力による価値共創が必須となる。
「ビジネスのためのデザイン思考」(紺野登:東洋経済)という本の中には、
『新しい結合という意味で、「デザイン」とは「デ」+「サイン」=従来の意味(記号)の組み合わせを否定し、変えること。』『デザインという知を通じて、人々の観点や思考が変わり、融合し、アイディアが生まれ、視覚化され、イノベーションが円滑に促進することが期待されます。』
という文章がある。まさにその通りであると考える。サービスデザインはなんのために必要か?と言われれば、迷わず私たちは“イノベーションを促進するため”と答える。これからの時代、従来の延長線上に未来はない。根底の価値観そのものから見直しをかけ、より関係者がハッピーになる状態を創るためにはイノベーションが必要である。そして、それを推進する重要なカギがサービスデザインであると思っている。 


そういう意味で、私たちにとってサービスデザインを研究する意義は以下の言葉に反映されている。
~「デザインは「志」です。デザインは『社会を動かす意味のある企て』です。」~(見えるアイディア ヴィジュアルコミュニケーショントレーニング塾:秋草孝 毎日新聞社より)


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